2013.09.27

「TPP 黒い条約」(中野剛志・編)

 日本にどういう影響を与えるわけ?政府は前向きだけど、農業が壊滅するという話もあるし?
 TPPのこと、実はよくわからないという人、お薦めです。「TPP 黒い条約」(中野剛志編 集英社新書)わかりやすいので、あっという間に読み終えることができるでしょう。これ1冊で、TPPの本質がすべて理解できると思いますよ。

 昨日読み終えたら、今朝の朝日新聞に、関連するような面白い記事が載っていました。タイトルは「国産材使ったらポイント 『WTOに抵触』カナダ・EU主張」国産材の利用促進のために農水省が4月から始めた「木材利用ポイント制度」に対して、カナダ、EUなど5カ国がWTOのルールに抵触する恐れがあると主張しているのだそうです。

 国産材の利用を進める政策が国際ルールに抵触する!?これは、TPPの本質をよく表す事例だなと思いました。輸入品と国産品の差別を禁止する内国民待遇原則に反するというのが根拠らしいとされています。おいおい、ということは、食糧自給率を高めるために、米、その他の農産物の利用促進を図るような政策はダメということになるわけだな。政府がこれまで行なってきた家電や自動車などのポイント制度は、環境によいことが基準になってきたので(輸入品でもその対象になるから)問題にはならなかったと言います。しかし、このケースもTPPになるとそうはいかなくなります。例えば日本の環境基準がアメリカなど加盟国のそれを上回っている場合には、その基準自体がTPP違反とされるでしょう。さらには、ISD条項というおよそ国家主権が有名無実になる規定により、この環境基準により不当な不利益をこうむったとして、例えばアメリカの自動車企業が日本国を告訴し、損害賠償を求めることができるというのです。

 TPPというと、農業などの関税問題が主題だと思っている人が多いと思います。もちろん、農業にとっては死活的な問題ですが、むしろ本丸は上記のような非関税障壁なのです。食糧、環境をはじめ、医療、介護、共済などさまざまな分野に、日本の歴史と文化、思想に基づく独自性があります。どの国も同様です。ところが、TPPとは、商取引のあらゆる分野で、国家の主権、国民の選択を認めないというところにその本質があるのです。

 TPPによって、EUと同様の単一の環太平洋経済圏ができます。しかし、そのEUが、今、悩みに悩んでいるではありませんか。

 我が国にとってはTPPはもう一つの意味があります。安倍首相自身が認めているように、安全保障政策の一環としてもTPPへの参加が必要だとされているのです。簡単に言えば、例えば、尖閣列島における中国との対立が戦闘に発展した場合、アメリカに助けてもらわなければならない。そのアメリカが「絶対に入れ!」と言っているTPP参加を拒否するわけにはいかない、ということです。しかし、確かにアメリカは、中国に対して尖閣列島は日米安保条約の対象区域と言っていますが、現実に戦闘がおこったら、果たして、中国と交戦することがあり得るでしょうか。超高齢化が進み、急速に人口が減少する日本と、まだしばらくは高度成長を続け、GDP世界一ももそう遠くない経済、軍事大国、中国のどちらを選ぶでしょうか。

 日本は、アメリカ依存と自由貿易で発展してきたことは確かです。しかし、それはもう夢のまた夢、新たな価値観を構築しなければ、一歩も前に進まなくなっているのです。

 この本は、そのことを余すところなく教えてくれます。