2013.07.19

書籍3冊

 このところ、5冊くらいの本を同時進行で読んでいたが、相次いで3冊を読了。
まずは「いま、福祉の原点を問う 養老院の子の歩んだ道」(中辻直行著 筒井書房)。恥ずかしながら、 今年4月に亡くなられた著者のことを、私はまったく知らなかった。私と同年代(1950年生まれ)の著者は、自ら好んで「養老院の子」と名乗ったが、まさに彼の父が創った養老院の入所者に育てられたのだった。昭和26年に社会福祉事業法が成立し、社会福祉法人が制度化されたが、父親が創った社会福祉法人福生会は全国第1号の社福だった。地域の名家であったが、私財をすべて投じて生活保護養老施設(定員40人)が設立された。

 入居者第1号は、拾ってきた板やトタンを墓石に乗せて雨露をしのいでいる老夫婦だった。その話を民生委員から聞いた父上が20キロ近くをリヤカーを引いて迎えに行ったのだった。このご主人は京都帝大卒業後、中国、天津で銀行の役員をしていたが、終戦後、老夫婦だったため引き上げが最後になり、日本にたどり着いたのはつい数ヶ月前だったという。大陸に渡る際、日本の財産はすべて処分していたので、先祖の墓の前で暮らしていたというのだ。昭和27年、まだ戦後の混乱が続き、この老夫婦のような例は珍しいことではなかった。以後の収容者の多くは、公園などで暮らす高齢者等を強制的に措置する「ルンペン狩り」で集められた人たちだった。

 このご主人は著者の家庭教師役になり、奥さんが養育係だったという。他の収容者も含めて彼はまさに収容者に育てられた「養老院の子」だった。第1章は、この当時の社会状況や社会福祉家の気概をうかがうことができて、実に面白かった。

 彼の名が広く知られるようになるのは、阪神淡路大震災の際の獅子奮迅の働きに因ってであった。また、民間人として、介護保険制度の設計に深くかかわり、彼の発案が、制度に大きな影響を与えたという。まったく知らなかったとは、不明を恥じるばかりだ。一度会って、話を聞きたかった。ご冥福を祈ります。

 2冊目は、「人口減少社会という希望」(広井良典著 朝日新聞出版)。広井氏は本書の成り立ちについて、あとがきで次のように述べている。「2009年に「グローバル定常化社会」「コミュニティを問いなおす」という本を出し、2011年に私の中でこれらを統合するような意味合いをもった「創造的福祉社会」という本をまとめ、自分としては(この3冊の“トライアングル”によって)当分本を書くことはないだろうと思っていた。ところが、「コミュニティ経済」や地球倫理(ないし「福祉思想」)などのテーマをめぐる考えが徐々に進展し、また「We-bronza」その他の媒体に比較的短めの文章を書いているうちに全体として「人口減少社会という希望」というコンセプトでまとめられるような本の輪郭が浮かび上がり、本書が出来上がることになった。」

 まさに、氏のここ10年ほどの研究の集大成と言って良いだろう。できれば読書会でも行なって、深く議論したいと思うのだが、だれか付き合ってくれませんか。

 そして3冊目は、

「日本の保守思想」(西部邁 ハルキ文庫)。このところ、保守主義に関心を深め、佐伯啓思、橋爪大三郎などの触れてきたが、西部邁に行くのはさすがに自分でも抵抗感があった。「ほんとにいいの。後戻りができなくなるよ」ともう一人のぼくが囁く(笑)

 この本は、22年前に出版された「思想史の相貌」を文庫化したものである。彼は文庫版へのあとがきで次のように述べている。「日本の保守思想の流れにあって、言論界から少々目立つ誤解を受けていると思われてならない作家や作品について、私なりの批評を加えてみたら本書が出来上がった」。次の13人を批評している。福沢諭吉、夏目漱石、吉野作造、北一輝、河合栄治郎、和辻哲郎、伊藤博文、吉田茂、坂口安吾、竹内好、吉本隆明、小林秀雄、福田恆存

 面白かった。戻れなくなりそう(泪)