2012.07.20

大野更紗 vs 上野千鶴子

 今週の火曜日の夜、?カタログハウスの月例セミナーで、表記2人の対談が開催された。これは、何をさておいても行かないわけにはいかない。

 大野更紗さんは福島県出身、上智大学の外国語学部に入学後、ミャンマーの民衆支援に情熱を注ぐ活動的研究者であったが、突然、日本人にはほとんどいないという神経難病に侵され、壮絶な闘病を行っている人だ。このブログで紹介したが、彼女の「痛快活劇風超絶闘病記」(私が勝手に名付けたキャプション)「困ってるひと」は大ベストセラーになった。娘に読め!と促されて1日で読破、文句なしに面白く、大ファンになった。以後、彼女のブログ、ツイッター、論稿をチェックしている。

 一方の上野千鶴子さんは、押しも押されもしない超有名社会学者、フェミニズム研究者であるとともに、近年は社会保障、特に介護の問題での発言、著作が多い。「ケアの社会学」(太田出版)は、その集大成といえる大作だ。上野さんとは同郷、中学の同窓であり、生活クラブ風の村のパンフレットに出演していただくなど、親しくさせていただいている。「家父長制と資本制」などの学術書から、大ベストセラー「お一人様の老後」さらには、ご本人曰く下ネタ本「スカートの下の劇場」まで、何でもござれの活躍を続けている。また、ディベートの名手で、私は、以前から、上野さんとは生涯、絶対に論争をしないと、固く心に決めている。もちろん、頭の出来が違い過ぎているから、所詮勝負にならないことはわかっているのだが、それ以上に、上野さんは、論争で相手をコテンパンにやっつける「技術」がこれまた超一流なのだ。君子、危うきに近づくなかれ、である。

 でも、還暦を過ぎた上野さんは、以前とはずいぶん違ってきた。論争相手を「生きているのが嫌になるほど」叩きのめすことがなくなったように思う。最近面白いのは、朝日新聞土曜版「BE」の人生相談コーナー「悩みのるつぼ」での相談者と上野さんのバトル。人生相談と言いつつ、相談者の中には、明らかに、「上野千鶴子、さあどう答える!?」と、はなから挑戦状を突きつけている相談が少なくない。上野千鶴子に挑んでいるのだ。しかし、そこは上野さん、すべて承知したうえで、針の穴を通すような絶妙の回答で、相談者を、そして読者をうならせる。知らない人は、是非、ご一読を。

 ところで、そのセミナーに千葉くんだりから行ったのは、大ファン、大野更紗の顔を見たいということだけではない。大野さんは、「困ってるひと」で大ブレークして以来、多方面の社会課題に興味を持ち、もともと頭が良い人で勉強熱心だから、短期間に様々な分野で発言し、論稿を著しており、特に社会保障問題での発言が目立っている。私は折に触れてそれらを聞き、読んでいるのだが、ちょっと危険だなあと、ファンゆえの心配をしてきた。社会保障やその財源問題は、簡単でない。少しかじって安易に政策批判に走ると、大局を見誤ってしまう。最近の更紗さんにその危険性を感じていたので、上野さんが更紗さんにブレーキをかけてくれないかという期待、願いをもって、2人の対談を何としても聞きたいと思ったのだ。

 結論を言えば、上野さんは、さすがだった。相手を傷つけず、しかし、決して迎合せず、更紗さんから時折り出る安易な言葉、言説に、一つひとつ、優しくかつ非妥協的に対応していた。

 ただ、ある意味、飛ぶ鳥を落とす勢いの更紗さんが、どこまでそれを感じ取れたかはわからないが。